以下の記事は、2013年4月頃の回想録です。
ゴーゴーで働く彼女の1ヵ月の収入額の次に話題となったのが、支出に関してでした。
確かに、メイの仕事を辞めさせる上でも、特に彼女の固定支出と言うものを押さえておく必要はありましたから。
更に、もし支出額に無駄な部分があれば、その部分を指摘して削らせることだって出来るかもしれません。
このように考え、僕はさっそく、メイの話を聞いてみたんです。
彼女は1ヵ月にかかる固定費について、分かりやすい物から順に教えてくれました。
そこで、まず一等初めに出てきたのは、アパートの家賃。
これは僕も把握しているものでしたからね。
当時、メイは家賃3,500バーツのアパートに住んでいました。
これに加えて、水道光熱費が合わせて1,500バーツぐらいでしたかね。
それらを合計すると、毎月だいたい5,000バーツ程がかかっていました。
次に食費です。
食費に関してはメイ自身、1日にどれぐらい使っているのかを全く把握出来ていなかったようなので、例えば一日どんな食生活を送っているのかと言う事を聞きだした上で、僕が勝手に計算してみました。
その内訳は・・・。
昼に起床し、屋台で購入・・・・・・・・約100バーツ。
出勤前に、職場で間食する分を購入・・・約100バーツ。
仕事終わりに友人たちと食事・・・・・・約100バーツ。
と言う事で、大まかな1日のモデルとして合計約300バーツという数字が出てきました。
この数字を元に単純計算すると、1ヵ月当たり9,000バーツと言う事になります。
ただ食費に関しては僕と一緒に住んだ場合、倍近くに跳ね上がるのは目に見えていましたからね。
この数字はあくまで、メイ一人分と言う事です。
ちなみに、メイはアパートで調理をすることもありましたが、その場合でも食費はさほど変わらないと思います。
むしろ自炊するとなると、その1回のために色々な食材を用意してくるので、却って食費が膨らんでしまうケースだってあったぐらいですから。
それからお次は、毎月の衣装代やら化粧品代、美容室代などです。
彼女の職業柄、この部分ははっきり言って毎月非常にかかっていました。
正直、普通のタイ人女性からしたら考えられないぐらいの額だと思います。
その内訳はこうです。
ほぼ毎日、出勤前に自宅近くの行きつけサロンにて髪の毛のセット・・・120バーツ。
出勤時に着ていく衣装については購入後1度しか着ない(彼女のポリシーだそうでした)・・・一着約300バーツ。
加えて、毎日のメイクに使う化粧品代が1カ月当たり、およそ2,000バーツ。
その他、靴やバッグなどの購入分が月に約1,000バーツ。
そして更に、定期的に行っていた美容整形にかかる費用をひと月あたりに換算すると、だいたい5,000バーツ
それから歯の矯正代もここに挙げておくとして、矯正費用の総額をひと月あたりに直すと、約1,000バーツ。(歯の矯正に関しては初期及び最後にかかる費用の合計が4万バーツ、それ以外の通院費用は1ヵ月20バーツぐらいなので、その上でだいたい治療に約2年程度かかるとして考えた数字です。)
これらをまとめると、1ヵ月にかかる服飾・美容関係費はおおよそ21,600バーツと言う事になります。
ただ、当時初めてメイのアパートでお世話になり、そこで一緒に暮らすようになってみて思ったことなのですが、彼女の買い物に対するこだわりというものは相当な物だったんです。
ですから多分、実際には服や靴、バッグなんかのアパレル品をもっと大量に購入していたことは確かでした。
アパートのクローゼットの中には、1度も着たことないような服も大量に眠っていましたから。
それにしても、この合計金額を見て貰えれば分かる通り、服飾及び美容費だけで既に一般タイ人の大学初任給分を超えている状況だったんです。
これだから、なかなか夜の仕事からは抜け出したくないわけです。
だって普通の仕事をしていたら、こんな贅沢出来るはずがありませんから。
まあ勿論、ゴーゴー嬢という職業だからこそ、こうして美容代にお金がかかるということも言えるのですが、僕から見た印象ではそれだけではきっと無かったんですよね。
と言うのも、メイは多分元から自らの外見に対してある意味で非常に厳しい人だったのだと思います。
そんな自分の美に対する欲求を満たすためにも、より多くの収入が必要だったのでしょう。
さて、お次は交通費関係です。
これは単純明快です。
まず、彼女は出勤の際、必ずモタサイを利用していました。
ルートはメイの住むプラカノンのアパートからソイ・カウボーイまで。
これが1回につき、100バーツ。
それから帰りのタクシー代。
これも必ずかかる費用でして、1回につき100バーツ。
本来メーターを使うと深夜で道も空いていて60バーツ程度で帰って来れるのですが、残りは毎回チップとしてあげていたようです。
まあ、運転手の人も遅くまで大変でしょうし、何より女性が一人でタクシーを利用する場合、なるべく支払い等のトラブルは避けるべきですからね。
タクシー代の支払い方に関しては、メイの考えも正しかったのでしょう。
と言う事で、1ヵ月の交通費合計はおよそ6,000バーツ。
勿論、1ヵ月の間毎日仕事に行くわけではないのですが、休日などにも結局タクシーは利用するので、さして変わらないかと思われます。
また、僕は一度彼女にBTSなどを使って出勤しようと思う事はないのかと聞いてみたのですが、やはりゴーゴー嬢たちにとって、BTSの明るい車内というのは抵抗があるとのことでした。
それにBTSに乗っている乗客に目を向けても、彼らは中産階級以上の人達が主になりますからね。
同じタイ人ではありますが、彼らも夜の仕事をする人間に対しては少なからず偏見を持っていることは間違いないですし、だからこそ、そういう目にさらされたくないという思いもあったのでしょう。
次は、ローン関係の支出について。
メイには車のローンがありました。
ゴーゴーに勤めだして暫く経った後、米農家として暮らす家族にピックアップトラックを買ってあげたそうで、そのローンが当時まだだいぶ残っていたんです。
で、その支払いが月に約10,000バーツ。
加えて、彼女にはバイクのローンもありました。
これも確か田舎の家族に買い与えていたものだったかと思います。
その支払い額がおおよそ月に3,000バーツぐらいだったでしょうか。
そうするとローンの返済だけでも、毎月約13,000バーツと言う事になります。
ちなみに、当時メイは頻りにこう言っていました。
「家族に買ってあげた車のローンを完済した暁には、自分の車を購入するんだ」
「それもトヨタのカムリとかホンダのアコードみたいな大きな車を!!」
「それが私の最後の夢であって、必ず実現させてみせる!」と。
凄いことだと思います。
日本で働いていても、一生手に届くかどうか分からないような金額の車ですから。
(タイでのカムリやアコードの値段は日本の物より2倍程高いです。)
ただ、このように言う彼女の顔からは僅かながらの焦りも滲み出ていました。
きっと、この夢を実現するために残された時間がそんなに多くないことをなんとなく悟っていたのでしょう。
それもそのはずで、この世界の仕事と言うのはいつまでも続けられる物では決してありません。
そう考えると、毎日が時間との勝負でもあったのです。
なんたって、自らの生涯でいくら稼げるのかが、若い間のその数年にかかっているのですから。
続いては、交遊費について。
ゴーゴー嬢と言う職業柄、この総額もなかなか看過できないものなんです。
何しろ、彼女らはほぼ毎晩仕事終わりとあらば、友人たちと共にクラブへと繰り出していき、毎回考えられないような散財をしていたわけなんですから。
まあ、仕事上の付き合いと言う事で仕方ない面もあったのですが、それにしたって行き過ぎであることは確かでした。
(僕と出会う以前のメイは、自分や同僚に付いた客の出費の下で遊びまわることも多かったようです。)
で、この交遊費の合計については何とも言えないのですが、まあおよそ月に10,000バーツと言ったところでしょうか。
ただ、これに関しては月によって本当にまちまちでしたからね。
例えば、自身の誕生月なんかになると、誕生パーティーを自らで主催しなければならず、その支出額も相当な物になります。
(タイでは誕生日の際のお祝いパーティーをその本人が主催するといった文化もあります。ただこれには個人差があって、最近は日本と同じように友人や恋人に負担して貰うスタイルも多いですが)
そして最後に、家族への仕送りについて。
これに関しては、流石に僕も詳細を知ることは出来ませんでした。
何しろ、メイは頻繁に家族のために送金をしていましたから。
本人ですら、月に幾ら仕送りしていたのか、その正確な額は把握していなかったようでした。
時に家族の誰かが風邪を引いただとか病気にかかったなんて聞くと、幾ら必要なのかという詳細も聞かずに、毎回大金を田舎に送っていましたからね。
僕なんかが冷静に見ていると、正直言って彼女の純粋さを上手く利用している節のある家族や親せきも大勢居たように思われました。
そういう人間達に限って、メイのような存在の事を金の生る木ぐらいにしか考えていませんでしたから。
「取れるうちに、取れるだけ取っておこう。」
そんな考えの下、田舎の親戚一同から全てを絞りつくされていく様子が手に取るようにわかりました。
そんな仕送りの額は、あくまで僕の予想ではありますが、最低でも月に20,000バーツと言ったところだったでしょうか。
けれども家族から緊急の依頼があった際などには、この額もすぐに超えてしまっていたようなので、実際のところはこれよりもだいぶ高い数字の月が圧倒的に多かったのではないかと思います。
さて、ここまでの1ヵ月トータルの支出をまとめてみますと・・・。
家賃・光熱費・・・約5,000バーツ。
食費・・・・・・・約9,000バーツ。
服飾・美容費・・・約21,600バーツ。
交通費・・・・・・約6,000バーツ。
ローン返済・・・・約13,000バーツ。
交遊費・・・・・・約10,000バーツ。
家族への仕送り・・約20,000バーツ。
支出合計・・・・・約84,600バーツ。
まあ、とんでもない数字です。
ちなみに前回まとめた収入額のモデルである、116,300バーツからこの額を引くと、約30,000バーツ弱の余りが出てくるわけなのですが、こうした余分なお金が出来た際に彼女の取る行動はいつも決まっていました。
それはズバリ・・・「金」を購入すること!
タイでよく金行を見かけるように、タイ人にとってそれはまさに重要な資産保有手段です。
そう言う事なんでとにかく、タイ人の金に対する執着心は物凄い物があります。
(特に華僑系タイ人にとって)
で、御多分に漏れずと言うか、メイにとってもそれは特別なものであって、本人曰く、持っている金の量が多ければ多いほど精神的に安定するというような事を常々言っていたんです。
だから、経済的に余裕が出来た際などには、よく金行に足を運んでいましたね。
実際そんな時の彼女の顔が一番幸せそうでした。
とまあ、こうして1ヵ月の支出に関してその詳細を聞き出していったわけなのですが、はっきり言って収入を聞いた瞬間と同様に僕の気持ちは完全に怖気づいてしまっていました。
「自分の付き合っている人は、毎月こんな経済的負担を背負って生きていたのか・・・」と。
でももう、内心破れかぶれだったんです。
「日本に住んで新しい恋人を探したとしても、無職の自分を相手にしてくれるような女性は絶対にこの先現れない」
「それならば、国や文化、生きて来た環境は違えど、こんな自分を受け入れてくれた人の下で暮らしていきたい!」
こうしてなりふり構わぬ思いでもって、僕はメイに対し最後の説得を試みたのです。