以下の記事は、2013年2月頃の回想録です。
退職後の一人旅に弾みを付ける為、人生二度目のゴーゴーバーへと繰り出した自分
向かったのは、ソイ・カウボーイでした。
大学時代の唯一のゴーゴーバー経験がソイ・カウボーイでのことだったため、当時の僕はまだそこしか知らなかったのです。
学生時代のゴーゴーバー初体験。
それはまさしく自分にとって鮮烈なものでした。
大学生の僕が初めて入った店は、ソイ・カウボーイの中でもひときわ赤いネオンをギラギラと輝かせる「バカラ」というお店。
バカラは当時から日本人の間で圧倒的人気を誇るゴーゴーバーでした。
初めてこの店に足を踏み入れた時の光景は今でも忘れません。
こんな場所がタイにあったのかとまさに驚愕したのを今でも覚えてます。
そして言わずもがな、日本人客が多いこと、多いこと。
自分にとって初めての経験だったこともあり、店内では終始周りの状況を飲み込むことが出来ず、結局一杯だけビールを飲んで早々に退散してしまったという初々しい思い出が今でも鮮明に蘇ります。
大学時代の自分にとっては、ソイ・カウボーイの中に一人で足を踏み入れるだけでも、相当の勇気がいる行為でした。
何しろ夜遊びのために、昼間二度もソイ・カウボーイに事前調査のため出向いた程でしたから。
ですが、このゴーゴーバー初体験は「単なる初々しい思い出」だけでは終わりませんでした。
と言うのも、緊張し過ぎでバカラを早々に退散してしまった自分は、懲りずにすぐさま別なバーへ立ち寄ることとしたのです。
まあ、大学生の好奇心というものは本当に恐ろしいものです。
バカラの次に立ち寄ったのは、青いネオンの輝く店、「シャーク」。
これまた当時の人気店でした。
この店も日本人で大繁盛しており、入った瞬間に店内の異様な熱気を思いっきり肌で感じました。
で、ここは一旦冷静になろうと、必死に気を落ち着けるべく努めた自分でありましたが、なんと席についた途端、一人のゴーゴー嬢からロックオンされ、そのままノックアウト 。
あれよあれよと言う間にその彼女を連れ出してしまうこととなるのでした。
まあ、なんともあっけないものでしたね。
多分、一軒目のバカラの光景が余りにもショックで、一時的に脳内がショートしてしまっていたのでしょう。
初めて連れ出した女性がどういう顔をしていたかなんて全く記憶にありませんが、女性がホテルから帰るまでの間中、絶えず心臓がドキドキしていたことだけは覚えています。
ただ同時にその時、僕の心の中では異様なほどの虚無感みたいなものが広がっていったのでした。
まあ、別に僕は当時から「自分が純粋な旅行者だ!」などとカッコつけていたわけではありませんが 、何か絶対に超えてはいけない一線を越えてしまったというような、多分罪悪感に近い物を感じていたのだと思います。
踏み入れてはいけない場所にとうとう足を踏み入れてしまったのだと、そんな感覚に陥り、 当時は一人で後悔したのを覚えています。
そしてその証拠に、大学在学中、僕がタイの夜の街に足を踏み入れることは二度とありませんでした。
では退職後、なぜまたタイの夜の街に顔を出す気になったのか?
一つの理由、それはやはり、退職して全てを一度日本で捨ててきた自分にとって、もう守るべき様々な観念が一切無くなってしまったためだろうと思われます。
もう、日本に戻ったところで、待遇の良い仕事にはありつけないだろうし、親や友人にも相手にされていない自分。
つまり、自分がタイで人の道に多少外れたことをしようが、誰も構わないだろうという考えが根底にあったわけです。
一種の諦めのようなものだったのかもしれません。
また、タイ社会の暗部というか、裏側みたいなものに興味があったのも事実でした。
せっかく日本で会社を退職して自由な身分になったのだから、怖い物でも何でも見てみたいという気持ちもありました。
ですが、一番の理由はと聞かれれば、 それはやはり「ただ単に、一人旅の孤独を紛らわしたかった」これに尽きるのだと思います。
日本を逃げ出して旅を始めたのは良かったですが、タイでの毎日はすぐに孤独との戦いとなりました。
元来、寂しがりやの自分にとって、人との繫がりが何もないということは、とても辛かったのです。
夜の街での、一時の繫がりでもいい。
当時の自分は、切実にそう感じていたのです。
かくして話は戻り、学生時代の旅行以来、数年ぶりにソイ・カウボーイへとやってきた自分。
赤いネオンが煌々と光り輝く、このソイでもっとも活気のあるゴーゴーバー「バカラ」へと再び足を踏み入れたわけです。
ここは前述した、学生時代に僕が初めて入店した思い出のゴーゴーバーでもあります。
予算も無いのであまり長居をする予定はありませんでした。
ですが久々のゴーゴーバーの店内で、学生時代と同様に僕はすぐに周りの雰囲気に圧倒されてしまい、たちどころに時間の感覚を失ってしまいます。
何気ない素振りで店内に居座りますが、すでに頭の中はパニック状態といったところでした。
何しろ、日本ではありえない光景が広がっていたのですから。
そして暫く、そんな感じで女の子との接触もなく、ただひたすら黙って座っていた自分でしたが、 ちょうどそんな時のことでした。
一人の女性がふいに僕に話しかけてきたのです。
実はバーに入ってきたときから、気になっていたその女性。
臆病な自分はずっと声を掛けられずにいたのでした。
そしてそんな僕の気持ちを知ってか知らずか、彼女は肌が剥き出しの衣装で僕の膝の上へと陣取ると、いきなりキスをして抱き付いてきたのです。
僕は戸惑いながらも、夢中で応戦しました。
そして早速、互いに英語で自己紹介をします。
彼女のニックネームは「メイ」と言いました。
言わずもがな、僕はこの状況の中、すぐに有頂天になりました。
この場合、普通なら誰でも彼女の行為がただの営業行為であることは容易に察しがつくのですが、その時の僕は既にメイに対して完全に一目惚れをしてしまっていました。
店に入ってから、ものの5分程度で、僕は一人のタイ人女性に心を奪われてしまったわけです。
初対面のはずのメイに、僕は自分を大いにさらけ出しました。
なぜだか分からないですが、タイに来てからというもの、ずっと孤独な生活が続いていたことにより、感情が溢れ出てきたのだろうと思います。
余りにも自分が素直だったためか、メイもそんな自分を受け入れてくれたような気になりました。
しかしながら、いくら意気投合できたとは言え、あくまでそこは「ゴーゴーバー」。
どんなに特別な感情を抱いたとしても、まず払うものを払わなくてはなりません。
そこで、僕はこの出会いを無駄にしないためにも、さっそくメイを店から連れ出すことにしたのです。
少ない旅の予算ではありましたが、奮発しました。
これがメイと僕の関係の波乱の幕開けとなるとも知らずに・・・。